#労務管理
2024/08/29

電子申請で業務を効率化!利用時のメリットや留意点を解説

目次

近年、在宅勤務やリモートワークの浸透などに伴って、事務作業における電子化が大きく進んでいます。
また、法改正により2020年4月からは、主に大企業を対象として、社会保険手続きの一部などの電子申請義務化が始まりました。
それでは、電子申請とはどのようなものなのでしょうか。
また、電子申請は具体的にどのような手続きにおいて行うことができ、どのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、電子申請で行える手続きの種類や申請方法、電子申請を行うメリットなどについて説明します。

電子申請とは

電子申請とは、各種の行政手続きをインターネット上で行うことを言います。
従来、窓口に出向いて所定の用紙に記入・提出する、という流れで行っていた手続きを、インターネット上で完結できる点が電子申請の大きな特長です。

2020年4月から、一部の社会保険手続きの電子申請が法改正によって義務化されました。
義務化の対象となったのは、「資本金または出資金の額が1億円を超える法人」、つまり大企業を中心とした「特定の法人」です。
義務化の目的は、行政手続きにおける企業の人事・労務担当者の負担軽減とされています。
現時点では、義務化の対象は大企業などの特定の法人のみですが、今後は中小企業やベンチャー企業にも電子化の流れが広がっていくと考えられます。
そのため、事業の規模に関わらず、すべての企業が電子申請への対応を進める必要があると言えます。

電子申請が活用できる主な手続きとは

電子申請では、厚生労働省や国土交通省、金融庁、経済産業省などの各省庁が所管する手続きを行うことができます。
企業において電子申請で行える手続きは、雇用保険や健康保険などの社会保険に関するものが中心になるでしょう。
そこで、企業で行われることの多い電子申請の手続きを、以下で3つに分けて解説します。

雇用保険

雇用保険に関して、以下のような各種手続きを電子申請で行うことが可能です。
具体的には、雇用保険の資格取得・喪失届の提出や、育児休業給付を始めとした各種の給付申請があります。

  • 被保険者資格取得届の提出

  • 被保険者資格喪失届の提出

  • 被保険者転勤届の提出

  • 高年齢雇用継続給付支給申請

  • 育児休業給付支給申請

健康保険・厚生年金保険

健康保険や厚生年金保険に関する各種の手続きも、電子申請で行うことが可能です。
具体的な手続きには以下のように、毎月の健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料を計算する際の基礎となる「標準報酬月額」に関するものなどがあります。

  • 被保険者報酬月額算定基礎届

  • 被保険者賞与支払届

  • 70歳以上被用者 算定基礎・月額変更・賞与支払届

  • 健康保険被保険者報酬月額変更届

  • 厚生年金被保険者報酬月額変更届

労働保険

労働保険に関する各種の手続きも、電子申請で行うことが可能です。
具体的な手続きには、以下のようなものがあります。

継続事業(一括有期事業を含む)を行う事業主が提出する以下の申告書

  • 年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出金申告書)

  • 増加概算保険料申告書

「概算保険料申告書」の「概算保険料」とは、従業員を雇用した際に、年度末までの当該従業員の賃金見込み額から算出した労働保険料(労災保険料・雇用保険料)のことです。
また、「一般拠出金」とは、「石綿による健康被害の救済に関する法律」が定める、石綿(アスベスト)による健康被害者の救済費用に充てるものです。
「一般拠出金」は、労災保険が適用されるすべての事業主が負担するものとされています。

電子申請の方法とは

電子申請を行うには、「e-Gov」による方法と、労務管理システムを始めとした専用の管理システムによる方法の二通りがあります。
それぞれの方法の特徴について、以下で説明します。

e-Govから申請する

「e-Gov」は、総務省行政管理局が運営するポータルサイトです。
2008年に、厚生労働省のIT戦略本部が中心になって「電子政府」を設計しました。
その電子政府の窓口となるのがe-Govです。
「電子政府」が設立された主な目的は、

  • 24時間365日いつでも企業が情報の取得や手続きを行えるようにすること

  • 行政事務を簡素化し、システムの最適化を行うこと

でした。
その目的の通り、e-Govでは時間を問わずに手続きをすることが可能です。

e-Govには、「各府省における行政情報の総合的な検索・案内サービス」と「各府省に対するオンライン申請・届出などの手続きの窓口サービス」という2つの役割があります。
行政上の手続きができるだけではなく、e-Govでは行政手続きに関する情報を検索することもできるのです。

e-Govの利用方法は以下の通りです。

1.利用準備をする

  • まずは、e-Govの電子申請アプリケーションをインストールし、アカウントを登録します。

  • 次に、アプリケーションを起動して、登録したアカウントでログインします。

2.申請・届出

  • e-Govの「マイページ」から利用する手続きを選択し、内容を入力し終えたら必要書類を添付します。

  • 提出ボタンをクリックし、入力内容に問題がなければ提出完了です。

3.手数料等の納付

  • 手数料などの納付が必要な場合は、納付を行います。「Pay-Easy」に対応した金融機関の場合、ATMやインターネットバンキングから電子納付をすることもできます。

4.公文書取得

  • 提出先の機関による審査の結果、申請が受理されると、文書が発出されます。
    発行された文書ファイルは「マイページ」からダウンロードできます。

また、e-Gov電子申請システムを利用するにあたっては、日本語OSのバージョンや、ブラウザでJavaプログラムが動作できるかなどの環境を、事前に確認・整備する必要があります。

専用の管理システムを使って申請する

e-Govの他に、労務管理システムを始めとする専用のシステムから電子申請を行うことが可能です。
現在、多くの労務管理システムや会計管理システムが各社から提供されています。
各システムに独自の特長があり、対応可能な書類、料金体系などもそれぞれ異なります。
システムを導入する際は、自社の目的や予算に応じた最適なシステムを選択することが大切です。

専用の管理システムを使用した場合、プログラムに反復作業の組み込みができるため、多くの手続きを効率的に処理できるでしょう。
e-Govでは、同じ申請内容であっても従業員ひとりひとりに対して、その都度同じ入力を行う必要があります。
そのため、従業員が多い企業においては、専用の管理システムを使用する方が手続きの負担が軽くなると考えられます。
また、管理システムに従業員の人事データを紐付けることで、従業員ひとりひとりの手続きの進捗を確認しやすくなるというメリットもあります。
クラウド型の管理システムを導入すれば、顧問の税理士などとシステムの内容を共有することも可能です。

メリットが多い反面、専用の管理システムを導入・運用するためには、初期費用やランニング費用などのコストが必要です。
電子申請以外の日常の業務でも活用できるかどうかという観点から、専用システムを導入するかどうかを判断することが大切です。

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電子申請を行うメリットとは

電子申請は、窓口に出向いて手続きを行う必要がないことから、業務における利便性が大きく向上すると考えられます。
では、具体的に電子申請にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
以下で4つに分けて説明します。

時間を問わずどこからでも申請できる

従来のように窓口に出向いて手続きをする際、状況によっては複数の窓口を回らなければならない場合がありました。
しかし、電子申請ではインターネットの環境さえ整っていれば、職場や自宅などでも所定の入力画面から一括して申請ができます。
また、手続きは24時間いつでも行えるため、空き時間を有効に活用できるでしょう。
不備なく手続きを行えれば、郵送などによる時間のラグも発生しません。
書類を提出するために窓口に出向くための交通費も削減できると考えられます。

申請にかかる時間を削減できる

人事や労務の担当者は、従業員の勤怠管理や給与計算、社会保険や年末調整など、あらゆる手続きを一年を通して行っています。
特に従業員が多い企業では、行政に対する申請や届出をする機会が多くあるでしょう。
以前は、そのような行政上の手続きが発生する度に、担当者が職場と窓口を往復する必要がありました。
また、窓口で申請・届出が受理されるまでに、待ち時間がかかる場合もあります。
このように、手続きが必要になる度に必要書類に記入し、職場から行政窓口に出向くのは大きな負担です。
電子申請であれば、書類の記入から提出までをオンライン上で完結できるため、人事・労務担当者が窓口へ出向く必要がありません。
職場と窓口を往復する時間や、窓口での待ち時間によるロスをなくせることにより、担当者の残業時間の削減につながることが期待できます。

情報漏えいリスクを軽減できる

書類で申請を行う場合、書類を窓口で提出するまでの移動中や郵送するまでの間に書類を紛失するリスクがあります。
記入後の書類の紛失は、従業員の個人情報の漏えいにつながります。
また、保険などの手続きに関する書類は、保管期限が定められている場合があります。
紙での保管の場合、社内での保管時やオフィスの移転時などに書類を紛失する可能性もあります。
膨大な書類を管理する場所の確保や、必要な時に特定の情報をすぐ取り出せるよう整理しておくことも容易ではないでしょう。
電子申請であれば、書類の記入や提出、保管はすべてオンライン上で行うため、個人情報を外に持ち出す必要がありません。
そのため、書類を紛失する可能性が少なくなり、個人情報が漏えいするリスクを大きく軽減できると言えるでしょう。

手数料などを電子納付できる

行政に対する申請や届出には、手数料が必要な場合があります。
現金のみの取り扱いとしている窓口が多いため、一度に多くの手続きを行う場合、手数料の支払いが負担になる場合もあるでしょう。
電子申請の場合、手数料をインターネットバンキングやモバイルバンキングなどを通じてオンライン上で納付することが可能です。

電子申請を行う際の主な留意点

電子申請は、場所や時間を問わずに行政手続きができることから、業務効率化を大きく促進することが期待できます。
それでは、電子申請を行う際の留意点には、どのようなものがあるのでしょうか。
以下で、3点に分けて説明します。

早めに準備を進める必要がある

電子申請は、始める前に利用環境を整えたり、申請の方法を把握したりする時間が必要です。
また、労務管理システムなどの専用管理システムを新しく導入する場合は、従来使ってきた他システムと、データの連携を行う必要があります。
その他、電子申請に関して作成したデータやファイルの保存先など、電子申請についての社内ルールの整備も必要です。

さらに、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」や「雇用保険被保険者資格取得届」などの手続きを行う場合には、「電子証明書」が必要になります。
電子証明書とは、認定局と呼ばれる指定機関が「申請の対象者が間違いなく本人である」ということを電子的に証明するものです。
電子証明書は証明期間によって、12ヶ月では4,300円、24ヶ月では8,300円など、それぞれ手数料がかかります。
そして、申請者の住民票や印鑑証明書、代表者の印鑑証明書や商業登記簿謄本などの書類が必要であり、取得するのに一定の日数がかかります。
いざ電子申請を行おうとしたら、電子証明書が必要と分かり、想定よりも多くの時間がかかってしまった、という事態になることも考えられます。
余裕を持って申請を行えるよう、電子申請に関する事前準備を早めに始めることが大切です。

個人情報管理の徹底

電子申請を行うにあたっては、個人情報の取り扱いに細心の注意を払うことが重要です。
雇用保険や健康保険など、各種保険に関する手続きでは、従業員や従業員の家族の個人情報を取り扱う機会が大変多くなります。
書面での手続きと比べると、電子申請では書類の紛失・盗難などによる情報漏えいのリスクは大きく軽減します。
それでも、個人情報の誤送信などのリスクは残ります。
個人情報を守るためには、情報が入ったファイルにアクセス権を付与する、パスワードを設定するなどの対策が必要です。
また、手続きに関する書類には、法令によって保管期限が定められている場合があります。
紛失や盗難による情報漏えいのリスクを避けるためにも、書類を保管する際は紙ではなく、電子帳票としてデータで保存するなどの対策を取ると良いでしょう。

入力段階で入念なチェックが必要

電子申請では、パソコン上で書類の記入を済ませ、申請・届出を行います。
もし、書類を記入する段階で誤記や書き漏れなどがあった場合、提出自体はできても、不備があるとして後日差し戻される場合があります。
窓口で書類を提出する場合は、記入間違いがあればその場で指摘され、修正することができるでしょう。
書類の提出時に記入間違いに気づきづらい点は、電子申請特有のリスクと言えます。

書き損じや書き漏れによって書類が差し戻されると、提出してから差し戻されるまでの日数がロスになります。
また、修正した書類を再度提出し、受理されるまでの間にも日数がかかります。
このように、本来数日で受理される手続きでも、不備があると受理までに長い日数がかかる場合があるでしょう。
申請の受理に余分な時間をかけないで済むよう、書類への入力段階で内容にミスや漏れがないかを入念にチェックすることが重要です。
また、最後まで記入したのに提出時に不具合が生じる、といったことがないよう、常にシステムやアプリケーションを最新の状態にアップデートしておくことを心がけましょう。

まとめ

電子申請は、従来窓口へ出向いて行わなければいけなかった手続きを、時間や場所を問わずに行えるようにする大変便利な仕組みです。
企業において重要な、従業員の雇用保険や健康保険などの手続きをいつでもどこからでも行えるため、在宅勤務などの働き方にも柔軟に対応できます。
一方で、個人情報の取り扱いを慎重に行うことや、使用するシステムを常に最新の状態にしておくことなど、注意するべき点もあります。
情報漏えいやシステムの不具合などには十分留意しながら、電子申請の利便性を活用すると良いでしょう。

HR大学編集部
HR大学 編集部

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