#人事評価
2024/08/29

人事評価制度を設計するには?課題やポイント、制度設計のいろはを解説

目次

企業が成長するとともに、課題として現れる人事評価制度の設計。
売上や利益に直結しない分、十分なリソースが割けない企業が多いのではないでしょうか。

この記事では、今まさに人事評価制度を設計しようとしている企業の担当者のために、制度設計の基礎知識をまとめました。

「人事評価制度を設計しなくてはならないけど、何から手をつければよいのか分からない」とお悩みの方は、ご一読ください。

人事評価制度における設計とは

そもそも、人事評価制度の設計とは、具体的にどのような業務を指しているのでしょうか。

広い意味での人事評価制度とは、労務や採用、育成などを含む人材管理に関わる制度全体を指します。企業では、効果的な人材活用を目的として、評価制度や報酬制度、等級制度などが作られます。これらをまとめたものが、人事評価制度です。

労務管理は法律に則った運用が求められるため、どの企業でも守るべき軸があります。一方で、労務以外の等級制度や評価制度などに関しては、各企業に応じた独自のものを設計しなければなりません。

そのため、多くの企業が、等級制度や評価制度、報酬制度の設計について頭を悩ませています。

なぜ人事評価制度の設計が必要なのか

人事評価制度の設計は、企業が成長するために不可欠です。

数名の従業員で創業したベンチャー企業でも、事業が大きくなるにつれて従業員が増えていきます。従業員が増えるということは、人材管理の必要性が高まるということ。

従業員が増加した企業で、人材マネジメントを適切に実施しなければ、従業員のモチベーションを下げてしまいます。モチベーションが低下した結果、離職につながるケースも出てくるでしょう。

このような結果を防ぎ、従業員が快適かつ高いパフォーマンスで働くために、適切に人材マネジメントしなければならず、人事評価制度を設計する必要があるのです。

同一労働同一賃金の要請

2020年の働き方関連法案の改正で、不合理な待遇差が禁止され、同一労働同一賃金が求められるようになりました。

すでに人事評価制度が構築されていた企業は、同一労働同一賃金の要請により、新たな制度設計が必要な場合があります。

例えば、これまでパートタイマーやアルバイト雇用の従業員と、正社員の従業員の賃金が異なっていた企業は、これらが同一になる仕組みを設計しなければなりません。

同一労働同一賃金により、ジョブ型雇用制度がますます拡大していくと考えられており、多くの企業において、人事評価制度を再設計するタイミングが来ています。

リモートワークの拡大による働き方の多様化

新型コロナウイルス感染拡大にともない、多くの企業でリモートワーク化が余儀なくされました。働き方が大きく変わったことにより、従来の評価制度が通用しない場面が多々あります。

例えば、日々のコミュニケーションを通して、仕事への意欲や姿勢を感覚的に評価していた企業では、リモートワークでの人事評価は困難です。リモートワークでは、顔を合わせず、雑談のタイミングが少ないため、別の評価基準が必要になります。

また、オフィスのリモート化を皮切りに、フレックスタイム制など、従業員一人ひとりに合わせた多様な働き方を取り入れる場合あるでしょう。このような企業は、人事評価制度を抜本的に見直すべきタイミングが来ています。

転職が増えた

転職の増加も人事評価制度を再設計する要因の一つです。

日本の企業では、新卒一括採用が主流でした。そのため、日本企業では新卒社員をゼロから育成する制度を採用している場合が多いです。

しかし近年は、一つの企業に留まらず、スキルやライフステージに応じて転職する人が増えました。新卒一括採用がメインだった企業でも、徐々に転職者を受け入れる態勢を整えなければ、人材確保が困難になっていくでしょう。

これまでの人事評価制度と課題

人事評価制度を設計するには、まずは現状の課題を認識することが重要です。課題を自覚できていなければ、何をどう設計していくべきかの方向性を定められません。

ここからは、制度設計の目的を決められるよう、現在の日本企業の課題を説明していきます。

年功序列

一昔前に比べると減ってきたとはいえ、年功序列を採用している企業は未だにあります。

年功序列制度とは、従業員の年齢が上がると共に、賃金が上乗せされていく制度です。また、入社年度が古い従業員から順に昇格していきます。

年功序列の問題点は、責任のあるポジションが古株の従業員で埋まっており、若手社員の昇格チャンスがないことです。

能力の高い若手社員が「早く昇格して、もっと成長したい」と感じても、自分の番が回ってくるのは数十年後となる状況は往々にしてあります。

そのため、年功序列を採用していると、成長意欲が高い若手社員ほど早々に離職してしまう負のスパイラルに陥るのです。

職能評価

近年、多くの日本型企業が採用してきた、職能評価も課題と捉えられるようになっています。職能評価とは、従業員の能力を基準に評価する人事評価制度です。

つまり、従業員が各役職にふさわしい能力があるかどうかを評価基準にする制度と言えます。

職能評価は、様々なスキルの積み上げるほど高く評価がされる性質上、結果的に年功序列に陥りやすくなっています。また、従業員を長期的に育成する前提の評価制度であり、転職が増加している昨今、制度の見直しが必要だとみなされています。

成果主義

古くからの年功序列を廃止し、年功序列を採用している企業がありますが、成果主義にも問題点があります。

成果主義とは、従業員の実績と処遇をシビアに突き合わせる評価方法です。一見シンプルで公平な評価方法のようですが、成果の数値化が難しい部門では不公平さが出てきます。

また、最終的に仕事を受注するのは営業職だったとしても、受注までの過程にはそれ以外の部署が多く関わっており、誰か一人が上げた成果として評価しにくい側面もあります。

ジョブローテーション

ジョブローテーション制度は、従業員を業務内容の異なる部署に配属し、多くの仕事を経験させることによってジェネラリストを育成する制度です。

ジョブローテーションは、終身雇用が前提であるという側面があります。終身雇用が崩壊しつつある現在、制度の維持は難しくなってきています。

そこで、長期的な目線でジェネラリストを育成することよりも、各業務のスペシャリストを育成・採用する方が、企業にも従業員にもメリットが大きいと考えられるようになりました。

このように、終身雇用が崩壊しつつある現状において、ジョブローテーション制度も改革が必要だとみなされています。

人事評価制度設計の心得

続いて、人事評価制度を実際に設計するときの心得を解説します。今後の制度を設計する際の前提条件として覚えておきましょう。

自社の課題を明確にすること

まず、実際に制度設計を開始する準備として、自社の課題を明確にすることが重要です。

前述の日本型人事評価制度における課題を参考に、自社独自の課題を明確にしましょう。

課題を明文化するときは、可能な限り抽象度を下げ、問題を掘り下げることが大切です。

また、人事部や経営幹部だけで話し合うのではなく、現場の声をすくい上げることで、より本質的な課題を認識できます。

経営戦略と連動させること

昨今、人事評価制度は経営戦略の一環として捉えられています。しばしば「戦略人事」と表現され、経営戦略からトップダウンで人事評価制度を設計していく方法です。

経営戦略から逆算して人事評価制度を作っていけば、自社に必要な人材像が自動的に見えてきます。そうすれば、採用計画や育成方針など、具体的な部分にも合理性が生まれます。

合理的な人事評価制度は、従業員の帰属意識やモチベーションを高く保つ要因となり、企業の成長のために必要です。

運用可能な制度を設計すること

見落としがちな観点ですが、人事評価制度は運用が現実的でなければ意味がありません。論理上では完璧だと思える制度ができたとしても、運用できないケースがあります。

評価シートや報告用フォーマットを整備し、いざ運用を開始したものの、マネジメント層の業務負担が大きく、結局活用されないなどといったことが起こり得るのです。

再現性のある人事評価制度を作るには、ステークホルダーを巻き込み、各部署の生の声を聞きながら構築することが大切です。

中期的にチューニングする目線を持つこと

人事評価制度において、短期間で完成を目指すことはナンセンスです。

制度設計は、普段の業務とは別にリソースを割かなければならない業務です。そのため、短期集中で一気に構築し、早く終わらせたいと思うのも無理はありません。

しかし、前述の通り、制度設計ができたからといって、実際の運用が上手くいくとは限りません。企業の規模や従業員が変わっていくごとに、不具合が出てくることもあるでしょう。

そのため、中期的な目線で運用し、適宜チューニングしていく姿勢を持つことが重要です。

制度設計のコンサルティングサービス

人事評価制度の設計を支援してくれる、コンサルティングサービスがあります。

人事評価制度の設計は、自社だけで行うのが難しい場合も多いです。予算に余裕があれば、コンサルティングサービスの利用を検討しても良いでしょう。知識やノウハウを持つコンサルタントが、自社に適切な人事評価制度の構築に向けて二人三脚でサポートしてくれます。

多くの企業で課題となる、人事評価制度の運用まで支援してもらえることもあります。コンサルティング会社によっては、IT技術を活用して人事評価制度を運用するタレントマネジメントシステムを提供しているところもあり、導入する企業が増えています。

頻出ワード解説|今注目の人事評価方法

ここからは、人事評価制度を設計するにあたり、しばしば出現する専門用語を解説します。簡単な説明とともに、用語について詳しく解説したページに飛べるようにしているので、参考にしてみてください。

コンピテンシー評価

コンピテンシーとは、優秀な成果を発揮する従業員に、共通してみられる行動特性のことです。コンピテンシー評価では、このような行動特性を評価基準として定めます。

コンピテンシーを分析すれば、成果を出すための行動パターンを知ることができます。

例えば、商談の進め方やメールの返信方法などです。成果を出している人が実施している方法を分析すれば、他の人にも応用できます。

評価基準が具体的で、透明性が高い人事評価方法です。

コンピテンシー評価については、こちらのページでより詳しく解説しています。
コンピテンシーとは?活用メリットやデメリット、導入の流れを解説

OKR

OKRとは「Objectives and Key Results」の略で、日本語では「達成すべき目標と、目標達成のための主要な成果」と訳されます。

OKRは、人事評価管理のうち、目標管理の手法です。OKRの特徴は、経営目標からトップダウン方式で、部署、個人の目標が設定されるところです。OKRは、測定可能な目標設定が基本であり、達成度により従業員を評価できます。

OKRについては、こちらのページでより詳しく解説しています。
OKRを導入する際のポイントは?MBOとの違いや導入時の注意など

MBO

MBOとは「Management by Objectives and Self control」の略で、簡単に言えば目標管理のことです。

MBOは、経営学者のピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント手法です。目標を自分で考えるため、従業員の自発性が高まるメリットがあります。OKRと同様、定量的に見える目標の達成度によって評価するため、管理しやすいところも特徴です。

MBOについては、こちらのページでより詳しく解説しています。
【実践編】MBO(目標管理)とは?導入方法、メリット・デメリットから目標設定方法までを解説

360度評価

360度評価とは、各従業員を多面的に評価する方法です。

従来の評価制度は、上司が部下を評価するのが一般的でした。360度評価では、同僚や部下、社外の人などからフィードバックをもらうことで、より客観的に評価を下すことができます。

さらに、評価の客観性が保たれるだけでなく、社内コミュニケーションのきっかけにもなり、風通しの良い職場を目指す企業におすすめです。

360度評価については、こちらのページで詳しく解説しています。
360度評価(多面評価)とは?メリットとデメリットや評価項目とフィードバック方法を解説

1on1ミーティング

1on1ミーティングとは、上司と部下が一対一で会話をし、部下のエンゲージメントや仕事の進捗度を把握する方法です。

一対一で会話をすることで、上司を部下の心理的安全性が高まり、離職防止にもつながります。上司と部下の間にある過剰な遠慮などを取り払えば、従業員が心地よく働ける環境をつくれます。そして、働きやすい環境をつくることは、結果的に仕事の質向上に結びつくでしょう。

1on1ミーティングについては、こちらのページで詳しく解説しています。
1on1とは? 従来の面談との違いや効果を高めるコツ

人事評価制度設計に役立つ本

最後に、人事評価制度の設計に役立つ書籍を3冊紹介します。

初心者でも挫折してしまわないように、易しく書かれた本を抜粋しました。人事評価制度の設計について、理解を深めるために活用してみてください。

改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方

「改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」には、近年主流のジョブ型雇用制度の必要性と、ジョブ型雇用に対応した人事評価制度の作り方が詳しく書かれています。

導入部分では、過去の日本企業の人事評価制度の特徴や問題点についても丁寧に解説されており、初めて人事に携わる人にとって理解しやすい内容です。https://www.amazon.co.jp/dp/4866671815/

図解 人材マネジメント入門 人事の基本をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ

「図解 人材マネジメント入門 人事の基本をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ」は、人事の業務の全体像が、図解とQ&Aで解説されています。

ビジュアルで分かりやすく説明されているので、人事領域は難しい言葉が多く、なかなか理解できないと感じている人におすすめです。

人事評価制度の設計を始める前の段階で、体系的な知識をおさらいするのに役立つでしょう。
https://www.amazon.co.jp/dp/4799326120/

弊社では、2021年2月25日・3月4日に、著者の坪谷邦生氏による「人が育つ組織の人事評価 〜理論と実践〜」というテーマのイベントを実施しました。イベントの内容は、こちらのページからご覧いただけます。

【イベントレポート】人が育つ組織の人事評価 〜理論と実践〜

人事の超プロが明かす評価基準

「人事の超プロが明かす評価基準」は、著者の経験をもとに、人事評価制度について解説してある本です。人事評価をされる側の人に向けて、どのポジションで何を求められているのかが書かれています。

良い制度を作ろうとするあまり、従業員を置き去りにしがちな制度設計。現場目線を知る手立てとなるでしょう。
https://www.amazon.co.jp/dp/4837926096/

まとめ

人事評価制度の設計は、企業の成長にとって欠かせません。

とはいえ、設計業務自体が売上に直結するわけではないため、後回しになりがちです。

また、何から始めれば良いのか分からない状況も、業務への着手を阻む要因となっているかもしれません。

まずは、自社の課題を明文化し、問題を認識することがスタートです。その後は、評価制度に関する知識を深めつつ、記事内で紹介したことを心得て制度設計に取り組みましょう。

HR大学編集部
HR大学 編集部

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