#人材育成
2024/08/15

カークパトリックの4段階評価法とは?研修のROI効果測定方法までを徹底解説

目次

近年、社員教育の効果測定に関するニーズが企業の中で高まってきています。中長期的に企業価値を高めるESG投資への関心の高まりや人事における財務情報の開示のトレンドがその背景にあるようです。そこで今回は、人材育成の評価方法であるカークパトリックの4段階評価法について解説します。

カークパトリックの4段階評価法とは?

カークパトリックの4段階評価法とは

近年、デジタルトランスフォーメーションや長期的視点を重視した経営手法の浸透により、社員教育の効果測定に対するニーズが高まってきています。代表的な教育の効果測定方法のひとつがカークパトリックの4段階評価法です。カークパトリックの4段階評価法とはどのような概念でしょうか。

カークパトリックモデルとは?

カークパトリックの4段階評価法(カークパトリックモデル)とは、インストラクショナルデザインの手法の一つで、教育の評価法をまとめたモデルです。1954年にドナルド・パトリックにより構想され、1959年に発表された伝統的なインストラクショナルデザインの枠組みです。教育の効果を反応、学習、行動、結果の4段階で表します。2000年代のIT時代到来とともに、ITを活用した研修のコスト削減や効果アップに注目が集まり、カークパトリックモデルが再び脚光を浴びることになりました。

インストラクショナルデザインについて詳しい知りたい方は「インストラクショナルデザインとは?研修DX時代の必須キーワード」をお読みください。

参考:「研修設計マニュアル」鈴木克明著、北大路書房

なぜカークパトリックモデルが使われるのか?

日本企業の教育研修部門では、人の成長は様々な要因が複雑に絡み合っているため、研修だけの効果を測ることは難しいと考えられてきました。そのため実際に効果があるのか分からない研修が行われることもしばしばあります。

例えば日本企業の新入社員研修は、毎年の4月に必ず実施しています。しかし、例年実施しているものであるため「なぜ新入社員研修を実施するのか」「どのような研修内容が効果的か」について話し合われることは滅多にありません。

なぜなら仕事のスキルや知識のない新入社員には全員一律で、特定のスキルや知識が必要だと考えられているからです。こうした効果が不明な研修に対しても、カークパトリックモデルを使用すれば、受講者の反応や職場での実践、実際の業績への貢献などの軸から研修の効果を測定できるようになります。

カークパトリックモデルの活用シーン

人事部門では、カークパトリックモデルを具体的にどのように使われるのでしょうか。

・研修内容の見直し

カークパトリックモデルに基づくと、まずレベル1の受講者の反応が評価指標になります。何気なく実施してきた研修でも、受講者の満足度をアンケートで調査することで本当に効果的な研修だったのかを確認できます。また、アンケート結果をもとに研修内容を見直すこともできるでしょう。

・研修ROIの測定

近年、特に求められているのが教育研修の投資対効果(ROI)の測定です。世界的にSDGsやESG投資への取り組みがトレンドになっているため、人材育成についても定量的にステークホルダーへ公表する必要性が出てきました。

人事部門のSDGsやESGについて詳しく知りたい方は「【人事向け】SDGsとESGって何するの?読んでスッキリ具体的な取り組み方法を紹介」をお読みください。
カークパトリックモデルの考え方を研修に適用すれば、各研修の満足度だけではなく、従業員エンゲージメントの向上度合いやトレーニング成果による売上向上などの視点を持つことができます。こうした視点をもとに自社ならではの定量指標を組み合わせて研修のROIを測定する企業が少しずつ増えてきています。

カークパトリックモデルによる4段階の研修効果測定

カークパトリックモデルによる4段階の研修効果測定

カークパトリックモデルは4段階で教育研修の効果を測定します。段階が進むほど、より高度な測定方法になっていきます。

カークパトリックモデル4段階

1.反応

一つ目の段階は反応です。受講者の反応を評価指標とする段階です。受講者アンケートや受講者へのヒアリングにより評価を得ます。多くの企業ですでに取り入れられている評価方法と言えるでしょう。

2.学習

2つ目の段階は学習です。受講者がどのようなことを研修から得られたかを測定します。具体的な方法は研修の事後テストや、シミュレーションを行って理解度や習得度を測定します。最近ではラーニングマネジメントシステムや問題作成可能なアンケートシステムが活用されるようになってきたため、比較的容易に取り組むことができる効果測定方法です。

3.行動

3つ目の段階は行動です。受講者が職場や実際の仕事で、どのように学んだことを活かして行動したのかを評価します。具体的には研修受講後に実践期間を1ヶ月~1年設定した後、受講者や上司へ実践度合いをヒアリングする方法が主流です。他には数か月後にフォローアップ研修を行い、実践結果を受講者から発表してもらう方法もあります。反応、学習と比べると少し手間がかかる高度な測定方法になります。

4.結果

カークパトリックモデルのうち4段階目で最も高度な評価方法が「結果」です。社員教育の結果、企業業績にどのような影響を及ぼしたのかを評価します。比較的簡単な評価方法が教育ROIを測定する方法です。なるべく少ない時間とコストで大きな学習効果を得られればROIが高いことになります。また、小規模な企業や営業部門であれば、トレーニングの結果を売上にすぐ反映することもできるでしょう。教育研修が及ぼしたこうした業績への影響を測定するのが4段階目の「結果」です。

研修の評価と効果の測定方法

研修の評価と効果の測定方法

カークパトリックモデルを教育研修部門で取り入れた場合、具体的にはどのような方法で研修の評価と効果測定を行えばよいのでしょうか。

受講者アンケートを活用した評価

最も一般的で簡単な方法が受講者アンケートを活用した評価です。学校教育でも取り入れられ、企業の教育研修部門でのよく実施しています。研修後にアンケートを実施すれば研修の評価を受講者からすぐに得られるため、研修の見直しが容易にできます。

一方で研修内容に対して受講者の好みがアンケート結果に反映される点や、受講者の満足度が必ずしも会社業績への貢献につながらない点がデメリットです。研修担当者がよく抱えるジレンマとして、受講者の研修への満足度が高かったものの、研修内容が職場での実践につながらなかったことでその研修が廃止されることもあります。

受講者アンケートの結果は、あくまでも研修内容の分かりやすさや、講師へのフィードバックなど、教える側の改善のために使用するとよいでしょう。

上司による評価

研修は学ぶことが目的ではなく、職場や仕事での行動が改善され、業績が向上することが目的です。行動改善の評価方法として、研修後に行動が変化したかどうかを上司からの評価で効果測定を行う方法があります。受講者の上司へアンケート調査やヒアリングを行い、受講者本人にどのような変化があったかを確認するのです。上司による評価方法は少し手間がかかりますが、大手企業でよく採用されている評価方法です。

効果までのサイクルを短期化する

大手企業の教育研修部門でよく語られてきた神話があります。それは「研修による業績への貢献の効果は測定できない」というものです。

特に日本企業の階層別研修では、リーダーシップスキルなどマネジメントに関する研修が多かったため、リーダーシップスキルの向上が業績にどう影響を与えているのかを測ることは難しいと感がられてきました。

しかし近年はLMS(ラーニングマネジメントシステム)の登場により、eラーニングによって業務に必要な知識を必要なタイミングでいつでもすぐに学ぶことができるようになりました。例えばCRM大手のセールスフォース・ドットコム(Salesforce)では営業成績が落ちている営業担当者に対して、自動的にトーク力アップや業界知識の強化など最適な学習コンテンツをレコメンドする仕組みを導入しています。また学習の結果、営業成績がどのように変化したかもシステム上でモニタリングしています。このように、学習から学習成果の活用までのサイクルを短くすることで、必要な時に必要な知識・スキルをすぐ学び、それがその後どのような結果になったかをITを活用して測定できます。

DX/ESG時代の研修効果測定

DX時代の研修効果測定

研修の効果測定は最近、特にニーズが高まってきています。その背景には人事部門のDXやSDGsやESGといった長期的視点での経営などのトレンドがあります。

人事におけるDXの影響

世界的にデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。多くの企業が事業部門でAIやRPAなどによって事業内容や業務プロセスを変化させています。人事部門でもDXにより、タレントマネジメントシステムの導入が進むようになってきました。さらにその影響で教育研修部門でもDXが進み、社員教育のデジタル化やラーニングマネジメントシステムによる学習管理方法の変化が起きています。こうした影響によりITを活用して研修の効果測定が容易になったため、いま効果測定に再び注目が集まっているのです。

人事部門のデジタルトランスフォーメーションについてさらに詳しい知りたい方は「人事のDX推進【実践編】人事部門ではどのようにDXを推進するのか?」をお読みください。

ESG時代到来による人的資源の投資対効果追求

国連のSDGs採択をきっかけに、投資家の間でESG投資が浸透しました。それにより、投資家は長期的視点で企業価値を高めている企業への投資比率を高めています。また2020年にはアメリカのニューヨーク証券取引所が企業に対して人的資源の活用度合いを定量的に開示するためのガイドラインを発表しました。それに先立ち、2019年には人事領域における初めての国際規格として「ISO 30414」が成立。人的資源の投資対効果を定量的に開示する気運が高まってきています。そのため教育研修部門でも教育研修のROIを開示する準備を迫られてきているのです。

教育研修の内製化

教育研修部門のDXにより、ラーニングマネジメントシステムが導入され始めました。ラーニングマネジメントシステムにより、誰もが簡単に学習コンテンツを作成して共有できるようになり、社内でコンテンツをつくる企業も増えてきました。中には社内に動画撮影用のスタジオを作り、高度な撮影や編集を行っている企業もあります。教育研修のDXと内製化が進むことで、YouTubeのようにコンテンツへの社内評価を得られるようになりました。学習コンテンツに対する研修の効果測定が容易になってきたのです。

研修効果測定とインストラクショナルデザイン

こうした教育研修部門のDXにより、インストラクショナルデザインの考え方が注目されています。DXにより現場での学習ニーズをアンケートやタレントマネジメントシステムで把握し、分析結果に基づいて最適な学習コンテンツを実現できるようになりました。そのためADDIEモデルを活用した研修設計と教育効果測定へのニーズが高まってきているのです。
ADDIEモデルとインストラクショナルデザインについて詳しい知りたい方は「インストラクショナルデザインとは?研修DX時代の必須キーワード」をお読みください。

カークパトリックの4段階評価法とインストラクショナルデザインは教育研修担当者に必須の知識

人事部門のDXにより、教育研修の効果測定へのニーズが高まってきています。またESG投資の盛り上がりを背景に、これから教育ROIの開示も必要になるでしょう。教育研修担当者はこれまでのように研修をただ運営するだけではなく、インストラクショナルデザインの考え方をもとに効果的な研修を設計するとともに、教育研修の効果測定をきちんと行う必要があるのです。今回ご紹介したカークパトリックモデルやインストラクショナルデザインの考え方をぜひ実践しましょう。

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HR大学編集部
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