#人材管理
2024/08/28

医療業界におけるタレントマネジメントとは?実施の流れや注意点を解説

目次

組織が健全な状態で運営を維持し、継続的に成長していくためには、従業員ひとりひとりの能力や保有スキルの把握が不可欠です。
専門的な知識や技術が重視される医療業界においては、特にスキルや資格の管理は重要です。

ただ、従業員数が多いほど、従業員ひとりひとりの情報を正確に集め、管理することは難しくなります。

そのような従業員に関する情報の集約・管理において近年注目されているのが、タレントマネジメントです。

この記事では、タレントマネジメントの定義や医療業界においてタレントマネジメントを実施する際の流れ、実施する上での注意点について解説します。

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、従業員ひとりひとりが持つスキルや経験などの情報を集約し、採用や人材配置などの事業運営に活用することを指します。

タレントマネジメントの元々の概念は、アメリカで1990年代に生まれました。

最初のきっかけは、大手コンサルティング会社であるマッキンゼー&カンパニー社が「War of talent(人材育成競争)」という言葉を発信したことにあります。

その後、この言葉は「優秀な人材の発掘や適切な配置、育成支援などのプロセスを統合的に行う人材マネジメント」という意味で、欧米の企業を中心に広まりました。

このタレントマネジメントの概念は、日本では2010年前後に広まり始めました。

▼「タレントマネジメント」についてさらに詳しく
【完全版】タレントマネジメントとは?基本・実践、導入方法まで解説

タレントマネジメントが重視される理由とは

アメリカで生まれたタレントマネジメントの考えは、現在日本でも多くの組織に浸透しています。

なぜ、タレントマネジメントはそれほど重視されているのでしょうか。こちらでは3つに分けて説明します。

少子高齢化に伴う労働力人口の減少

日本では近年、急速な少子高齢化が進んでいます。それに伴い、現役で仕事に従事できる労働力人口は減少傾向にあります。今後も労働力人口の減少が続けば、企業が優秀な人材を採用する機会が少なくなっていくでしょう。

そこで、社会全体が「有能な人材の獲得が難しいのであれば、現在いる従業員のスキルや能力を伸ばして活用するべき」という考え方にシフトするようになりました。

その考え方の下で、従業員のスキルや能力を正確に把握するためのタレントマネジメントが重視されるようになったのです。

働き方改革の推進

近年の日本では、従業員のワークライフバランスを向上させるために「働き方改革」が推進されています。

働き方改革においては、組織それぞれでさまざまな取り組みがされていますが、その中でも特に重視されているのが長時間労働の改善です。長時間労働を改善するためには、業務の生産性向上が不可欠と言えるでしょう。

従業員ひとりひとりが生産性を高め、決められた業務時間の中で仕事を終えられるようになるために、タレントマネジメントを活用する企業が多くなっています。

技術の向上によるタレントマネジメントのしやすさ

以前のタレントマネジメントは、組織内で一からシステムを構築したり、従業員へのアンケートを紙ベースで集めたりと、実施に大変多くの工数がかかっていました。

しかし近年、さまざまなシステムやサービスが開発・提供されるようになりました。タレントマネジメントについても、一からシステムを作らなくても、パソコン等のデバイスがあれば効率的に実施できるサービスが増えてきています。

以前と比較して、工数をかけずに実施できるようになったことも、タレントマネジメントが重視され、普及した要因の一つと言えるでしょう。

医療業界におけるタレントマネジメントの目的とは

金融やメーカーなどの一般的なビジネス業界はもちろん、医療業界においてもタレントマネジメントを実施する流れが広がっています。

医療業界において、タレントマネジメントを実施する目的にはどのようなものがあるのでしょうか。以下で3つに分けて説明します。

従業員の資格・スキルの管理

医療業界での業務は、人の健康や生命に密接に関わる内容が多くあります。そのため、一般企業と比べて、従業員ひとりひとりが持つ資格やスキルの高さが重視されます。

そのような各従業員のスキルを管理することが、医療業界においてタレントマネジメントを行う大きな目的の一つです。

特に、大規模な医療機関などの施設では従業員の数も大変多く、従業員ひとりひとりのスキル管理が難しくなります。それらの膨大な従業員のデータを集約し一元化できることは、タレントマネジメントを実施する大きなメリットと言えます。

効率的な人材の育成

タレントマネジメントによってスキルを明確に把握できることは、従業員ひとりひとりの課題の解決に役立ちます。

医療業界においては、一定の技術が必要であったり、資格を保持していないとできなかったりする業務が多くあります。

タレントマネジメントにより、従業員ひとりひとりが何ができて何ができないのかを明確にできれば、従業員本人が次に目指すべき目標が定まります。目標があることによって従業員ひとりひとりのモチベーションが高まれば、迅速なスキルの向上に繋がるでしょう。

結果的に、戦力となる人材の育成が効率的に行えるようになると考えられます。

適材適所での能力の最大化

医療業界の現場では、迅速に患者への処置や家族への対応を行い、効率的に業務を回していくことが必要です。そのためには、必要なスキルを持った人材の適切な部門への配置が不可欠です。

タレントマネジメントによって従業員ひとりひとりのスキルを把握できれば、特定のスキルが求められる場所に最適な人材を配置しやすくなると考えられます。

また、自分のスキルに合う場所に配置されることにより、従業員ひとりひとりが自身のパフォーマンスを最大化させることができるでしょう。

それに伴って、各部門の業務効率化が促進されることも期待できます。

医療業界においてタレントマネジメントを実施する流れとは

特定のスキルや資格が必要な医療業界において、タレントマネジメントは大きな役割を果たすと期待できます。

それでは、医療業界でのタレントマネジメントは、どのような流れで進めるのでしょうか。

こちらでは、医療業界における一般的なタレントマネジメントの流れについて説明します。

1.現状の人材に関する状況を可視化

まずは、現在の組織内の従業員が持っているスキルや資格に関するデータを集約することが大切です。

現在、何人の従業員がいて、その内特定のスキルや資格を有する従業員がどのくらいいるのか、その従業員がどの部門にどのくらい配置されているのかなどを確認します。

こうすることにより、組織内でスキルを持つ人や有資格者が、どこに分散しているのかを可視化できます。

なお、この際に従業員のキャリアプランも確認できるようにしておきましょう。可能な限り、従業員ひとりひとりを希望する部門や部署に配置できることが理想的です。

2.現状の組織内の課題の把握

現状の可視化ができたら、組織全体や各部門が抱える課題を把握しましょう。

たとえば、組織全体としてあとどのくらいのリソースが必要なのか、各部門に特定のスキルや資格を持つ人がどのくらい必要なのかなどがそれに当たります。一日単位や一月単位であと何名多くの患者を受け入れたいなど、実務における実践的な数値を課題とするのも良いでしょう。

また、課題の把握は組織全体で共有できることが理想的です。現場の従業員だけではなく、人事部や経営層とも意見を交換し、課題の認識に相違が生じることがないように留意しましょう。

3.目標とゴールの設定

課題を把握した後は、それらを解決するための目標や、組織の最終的なゴールを具体的に設定しましょう。

各部門にどのようなスキルや資格を持つ人材を補充するか、また必要な人材は何人かなどを検討します。また、人材を補充する方法について、新たに採用するのか、現在いる人材を育成するのかなどまで具体的に検討します。可能であれば、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定すると良いでしょう。

4.データの分析や運用方法の見直し

課題の把握と目標・ゴールの設定ができたら、実際にタレントマネジメントを実施します。

可視化したデータを活用して、特定のスキルや資格を持つ人材を必要とされる部門に配置するなど、実践的なマネジメントを行いましょう。マネジメントの途中で新たな課題や想定外のギャップが生じた場合は、その都度軌道修正を行います。

また、人事評価や配置転換の実施においては、従業員ひとりひとりが思い描くキャリアプランを考慮しましょう。組織の都合のみに合わせて、従業員の将来的なプランやワークライフ・バランスを考慮しない配置を行えば、従業員のモチベーションの低下に繋がりかねません。

タレントマネジメントを実施する際の注意点

タレントマネジメントは効率的な人材育成や適材適所の人材配置に役立つツールです。

タレントマネジメントの実施にあたっては、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。以下で3つに分けて説明します。

タレントマネジメントそのものを目的にしない

タレントマネジメントの実施においては、システムの準備やデータの集約化など、一定の工数がかかります。そのため、ついタレントマネジメントの実施そのものが目的になってしまう場合があります。

しかし、タレントマネジメントは、その先に診療業務の円滑化や病院経営上の目標数値などの最終的な目的があってこそ行われるべきです。実施すること自体が、タレントマネジメントのゴールではありません。

最終目的を組織内で共有し、何のためにタレントマネジメントを実施するのかを常に意識するように心がけましょう。

正確に情報を収集し、適度に更新する

タレントマネジメントを実施する際は、従業員に関する情報を漏れがないよう正確に収集することが重要です。

保有資格などのスキル上のデータはあるものの、キャリアプランについての情報がなくては、正しいタレントマネジメントはできません。

たとえば、従業員本人が望まない人事異動が一方的に行われるなど、良くない影響が出る可能性があります。人事部や各部門が連携し、正確なデータをツール上で共有できるようにしましょう。

また、一度データを登録した後に何年間もそのままにしておいては、データを有効活用することはできません。従業員は一年間でもスキルを向上させたり資格を取得したりするなど、成長していきます。

その結果、キャリアプランに変更が生じることもあるでしょう。そのため、情報は適切な頻度で更新し、できる限り新しい状態に保つことが大切です。

広報活動などによりタレントマネジメントを組織内に浸透させる

タレントマネジメントを継続的に実施するためには、正しい情報を提供してもらうなど従業員の協力が欠かせません。

しかし、忙しさゆえに従業員自身が情報の入力や更新を失念しがちになる場合があります。また、個人情報である自身の情報の提供に抵抗がある場合もあるでしょう。

そのような状況を避けるためには、なぜタレントマネジメントを実施するのか、その目的を正しく知ってもらうことが大切です。働き方改革の推進や、従業員のワークライフ・バランスの向上などの従業員へのメリットも含めて、タレントマネジメントを実施する目的や意義を十分に周知しましょう。

また、情報の入力に使用するシステムの使い方が分かりづらいなどの意見も想定して、マニュアルを作成するなどの気遣いも大切です。組織内にタレントマネジメントが浸透するよう、広報活動を積極的に行いましょう。

医療業界におけるタレントマネジメント導入事例

実際の医療業界において、タレントマネジメントはどのように導入・活用されているのでしょうか。

以下で、実際にタレントマネジメントを実施している企業・法人の事例を紹介します。

株式会社メディカルリンク

株式会社メディカルリンクは、三重県の地域医療と健康づくりに貢献することをテーマに、地域密着型の調剤薬局を展開している企業です。

株式会社メディカルリンクの主要サービスである調剤薬局事業には、報酬点数に応じて売上が決まるという特徴があります。また、薬局周辺の医療機関の数や立地に顧客数が大きく影響されるため、マーケティングを行っても効果が出づらい面があります。

これらのことから、薬局の従業員が接客などのサービスを充実させても、それが評価に繋がりにくい傾向があると言えるのです。そこで「頑張っている医療職の人たちのプロセスを評価できるような制度設計を作りたい」という考えの下、タレントマネジメント・システムを導入しました。

導入の際、新しい文化を組織内に根付かせるためには時間が必要と考えた株式会社メディカルリンクでは、従業員に対してタレントマネジメントについてのメッセージを継続的に発信しました。さらに、導入したタレントマネジメント・システム上で1on1を記録するなど、活動の見える化を心がけました。

現在も、履歴の記録や集積を行うなど、タレントマネジメント・システムでのデータの活用を積極的に行っています。特に、以前は資格の取得状況などをExcelで管理していましたが、その作業に大変多くの工数がかかっていました。それらの情報を一元的に集約するなどして、専用のタレントマネジメント・システムを作業工数の削減に役立てています。

【導入事例】
株式会社メディカルリンク:HRBrainの活用で薬剤師のモチベーションをUP!地域密着型の調剤薬局の挑戦とは

医療法人社団順洋会グループ

医療法人社団順洋会グループは、医療事業や薬局事業、動物介在事業を展開している法人です。

順洋会グループでは、法人の理念と従業員自身のやりたいことをすり合わせ、一緒にキャリアイメージを作っていきたいという想いから、人事評価制度を構築したいと考えました。そこで、人事評価制度を一から作ったものの「人事評価制度」の『評価』という文言が独り歩きした結果、大きな反発を受けてしまいます。そのイメージを取り除くために順洋会グループでは、評価者に向けて人事評価制度についての説明を行いました。この制度が「お互いにどんなことをしていきたいか、何をしていきたいのかという未来をすり合わせる作業なんだ」ということを伝えたのです。

そのような取り組みにより、徐々に評価制度は職場内に浸透していきました。しかし、紙ベースでの評価であることから評価プロセスが見えづらい点に従業員が不満を抱くケースもありました。

そこで評価内容やプロセスを透明化させるために、紙ベースからタレントマネジメント・システムへ使用ツールを移行しました。このことにより、評価する側もされる側もコメントを書きやすくなり、じっくりと振り返りやアドバイスができるようになりました。

これらのタレントマネジメントの結果として生まれた変化の一つは、離職率の大きな低下です。従業員の勤続年数が伸び、産休から戻る職員も大幅に増えました。

また、面談をしてフィードバックする制度が浸透したことから、上司と部下の関係が良好になったことも大きな変化となりました。

【導入事例】
医療法人社団順洋会グループ:離職率を1/2に大幅改善。医療法人における人事制度構築の成功の軌跡。

まとめ

タレントマネジメントは、人材育成や適材適所の人材配置において非常に有効なツールです。

特に医療業界においては、人事評価はもちろんのこと、医療の現場であるからこそ必要なスキルや資格の管理にも大変役立ちます。

タレントマネジメントの効果を十分に得るためには、明確な目標の設定や、定期的な情報の更新などに留意することが大切です。

専用のタレントマネジメント・システムを使用するなどして、構築・更新の負担が少なくなるよう工夫しながら、タレントマネジメントを導入・活用してみてはいかがでしょうか。

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HR大学編集部
HR大学 編集部

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