ワークシェアリングとは?意味や導入事例とメリットとデメリットについて分かりやすく解説
- ワークシェアリングとは
- ワークシェアリングの海外での事例と効果
- ワークシェアリングの種類
- 雇用創出型
- 多様就業対応型
- 雇用維持型(緊急避難型)
- 雇用維持型(中高年対策型)
- ワークシェアリングを導入するメリット
- 職場環境の改善
- 生産性の向上
- 離職防止
- ワークシェアリングのデメリット
- 生産性の低下
- 給与への影響
- 生産コストの増加
- ワークシェアリングの導入事例
- ワークシェアリングの導入事例:従業員の仕事と生活の調和を支援(I社)
- ワークシェアリングの導入事例:働く意欲がある高齢者を雇い工場の稼働率をアップ(E社)
- ワークシェアリングの導入事例:正社員とパートの雇用区分をなくした人事制度改革(K社)
- ワークシェアリングを導入する方法
- 現状を把握する
- 不要な業務がないかを検討する
- 複数人で分担できる業務や職種を探す
- ワークシェアリングの導入を成功させる方法
- ワークシェアリングの導入は組織の環境改善や生産性の向上にも役立つ
ワークシェアリングとは、従業員がこれまで1人で行っていた業務を複数人で分け合うことで、1人に対する業務負荷を軽減させ、業務の効率性と生産性の向上を目指すことです。
日本でのワークシェアリングの導入事例はまだ多くはありませんが、「働き方改革」が進む中、政府主導のもと企業へのワークシェアリングの導入が促進されるなど、注目を集めています。
この記事では、ワークシェアリングとはどのようなものなのか、意味と注目されている背景や、ワークシェアリングのメリットとデメリット、企業での導入事例について分かりやすく解説します。
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ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、従業員がこれまで1人で行っていた業務を複数人で分け合うことで、1人に対する業務負荷を軽減させ、業務の効率性と生産性の向上を目指すことです。
厚生労働省の「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」によると、「ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うことを意味する。」と定義されています。
(参考)厚生労働省「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」
ワークシェアリングの海外での事例と効果
ワークシェアリングは、日本よりも先に海外で導入され、雇用動向の改善が認められています。
特に、1980年代に「オランダ病」とも形容された経済危機にあったオランダの取り組みは、ワークシェアリングが大きな成果をもたらした代表的な事例として知られています。
オランダでは、1982年に政府、労働者団体(労働組合)、企業(経団連)の三者の間で締結された合意である、「ワッセナー合意」に基づいてワークシェアリングが推進されました。
合意によって、労働者団体は賃金抑制に協力し、企業は雇用の確保や勤務時間の短縮に努力する一方で、実質的な雇用者所得の減少を緩和するため政府は減税などの施策を実施しました。
オランダは、ワッセナー合意での取り組みにより経済危機を克服し、1983年には11.9%であった失業率を、2001年には2.7%にまで低下させることに成功しました。
今では「ワークライフバランス先進国」と称されることもあり、ワッセナー合意以降も、正規社員と非正規社員の格差を埋める「同一労働・同一賃金」や労働者が自身の勤務時間を「短縮・延長」する権利を認める「労働時間調整法」が制定されるなど、柔軟性の高いフレキシブルな働き方の推進を実践しています。
オランダの事例に見られるように、ワークシェアリングによって得られる効果として、失業者の雇用問題だけでなく、長時間労働の緩和やフルタイム以外での多様な働き方の機会創出、離職率の軽減などが期待できます。
(参考)財務総合政策研究所「『経済の発展・衰退・再生に関する研究会』報告書」
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ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングは目的別に主に4つの種類に分類されます。ワークシェアリングの種類について確認してみましょう。
ワークシェアリングの種類
- 雇用創出型
- 多様就業対応型
- 雇用維持型(緊急避難型)
- 雇用維持型(中高年対策型)
雇用創出型
雇用創出型は、失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与えるというものです。
多様就業対応型
多様就業対応型は、フレックスタイム制度やテレワークなどの在宅勤務、パートタイム勤務を導入することで働き方を多様化し、これまで育児や介護などといった個人の事情によって、既存の勤務形態では働くことが難しかった多くの労働者に雇用機会を与えるというものです。
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雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)は、一時的な景況の悪化や生産量の変動を乗り越えるため、緊急避難措置として、労働者1人あたりの既存の所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持するというものです。
雇用維持型(中高年対策型)
雇用維持型(中高年対策型)は、中高年層の従業員を対象に1人あたりの所定内労働時間を短縮することで、中高年層の雇用を確保することができるというものです。高齢化社会を迎えている日本にとって、中高年層の雇用は重要課題のひとつと考えられています。
(参考)厚生労働省「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」
ワークシェアリングを導入するメリット
ワークシェアリングを導入することで企業や従業員が得られる、メリットについて確認してみましょう。
ワークシェアリングを導入するメリット
職場環境の改善
生産性の向上
離職防止
職場環境の改善
ワークシェアリングを導入するメリットには、「職場環境の改善」があげられます。
複数人で業務をシェアすることで、個人の業務負担を軽減することができ、無理のないスタイルで働くことができるため、従業員ひとりひとりのワークライフバランスを尊重しやすくなります。
プライベートの時間の充実やスキルアップのために学ぶ時間など、自分のために使える時間が増えることで、従業員の仕事に対するモチベーションの維持や向上も期待できます。
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生産性の向上
ワークシェアリングを導入するメリットには、「生産性の向上」があげられます。
時間や心にゆとりを持って集中して業務に取り組めるため、従業員ひとりひとりの生産性の向上が期待できます。
また、複数人で仕事を分け合うため、これまでよりも納期を早められることもあります。
さらに、空いた時間を使って業務改善に取り組むことで、より業務を効率化することもできるかもしれません。
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離職防止
ワークシェアリングを導入するメリットには、「離職防止」があげられます。
時短勤務や在宅勤務などの新しい働き方を導入することで、これまで通りの働き方をするのが困難であるという理由でのメンバーの離職を留めることができる可能性があります。
長く働ける環境を整えることで、経験を積んだメンバーの知見を活かした強い組織づくりに役立ちます。
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ワークシェアリングのデメリット
ワークシェアリングを導入することで懸念される、デメリットについて確認してみましょう。
ワークシェアリングのデメリット
生産性の低下
給与への影響
生産コストの増加
生産性の低下
ワークシェアリングのデメリットには、「生産性の低下」があげられます。
多数のメンバーが業務に携わるようになることで、引継ぎや情報管理、業務品質の均等化のために、結果として業務工数が増加してしまう可能性があります。
また、従業員によっては「1人で業務を行っていた時よりも仕事がやりにくい」と感じ、モチベーションが下がってしまうということもあります。
ワークシェアリングを導入する際は、引継ぎや仕事のやり方を従業員同士に任せるのではなく、事前に既存の業務をどのように分担するかの運用フローをしっかり検討しておきましょう。
給与への影響
ワークシェアリングのデメリットには、「給与への影響」があげられます。
労働時間が短縮されることで、例えば時間給の従業員は給与が下がってしまうというような影響が考えられます。
「もっと長時間働いて稼ぎたい」と考える従業員の場合、不満や離職につながってしまう可能性があります。
ワークシェアリングを導入する際は、スキルアップのための研修費用の負担や副業を許可するなど、従業員の反発を生まないような対策についてもあわせて検討するようにしましょう。
生産コストの増加
ワークシェアリングのデメリットには、「生産コストの増加」があげられます。
新たに従業員を雇う場合、給与や保険などの保障対象が増えるため、企業としての支出が増える懸念があります。
結果として、生産コストが増加してしまい企業が苦しい状態にならないためにも、ワークシェアリングの導入時期や採用する従業員の人数については綿密に計画することが大切です。
ワークシェアリングの導入事例
ワークシェアリングを導入した、日本国内の企業の取り組みについて確認してみましょう。
ワークシェアリングの導入事例:従業員の仕事と生活の調和を支援(I社)
I社は、「育児・介護・自己啓発」など私生活の充実を求める従業員が、仕事と生活の調和を図れるよう支援する「短時間勤務制度」を導入しました。
短時間勤務制度は、週あたりの勤務時間を8割または6割に短縮する仕組みで、1日の勤務時間を短縮する方法と、週あたりの出勤日数を4日または3日とする方法があり、申請理由について原則として制限はありません。
また、同社では、従来から「在宅勤務制度」を導入し、在宅勤務についても事由の制限や在宅勤務割合の規定はありません。
柔軟な勤務形態の採用で従業員の多様な要望に応え、高度な知識や経験をもつプロフェッショナルな人材集団を目指す取り組みを行っています。
(参考)厚生労働省「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」
ワークシェアリングの導入事例:働く意欲がある高齢者を雇い工場の稼働率をアップ(E社)
E社は、工場の稼働日を増やし生産性と売上や利益をあげることを目指し、土日に勤務する60歳以上の高齢者を新たに雇い入れ、従来休日であった年間110日の工場稼動を実現しました。
高齢パート社員の活用により、人件費の圧縮を図りながら工場の稼働率を上げ、低コスト化を進め、顧客の要求に柔軟に対応する「年中無休のコンビニエンスファクトリー」をめざす取り組みを行っています。
(参考)厚生労働省「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」
ワークシェアリングの導入事例:正社員とパートの雇用区分をなくした人事制度改革(K社)
K社では、パートタイマーと正社員の垣根を取り払い、「できる人・やりたい人」にやらせることを基本方針に、やる気と実力次第では店舗の幹部になる道を開くといったパートタイマーを重用する人事制度改革に乗り出しています。
経営成果に結びつく柔軟な人材配置を可能にするため、正社員とパートタイマーの雇用区分を無くし、全ての従業員が契約で結ばれる新しい「契約区分制度」を導入しました。
(参考)厚生労働省「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」
▼「人材配置」についてさらに詳しく
適材適所を実現する「人材配置」とは?実践的な方法とポイントを人事目線で解説
▼「人事制度」についてさらに詳しく
人事制度設計のポイントとは!設計方法を3つの人事制度を交えて解説
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ワークシェアリングを導入する方法
ワークシェアリングを導入する際は、人事、労務について熟知した専門的な知識が必要となります。
新たな人員を雇用したり人事制度を変更したりといった大掛かりな改革をしない場合でも、組織内でのワークシェアリングに活かせるよう、ワークシェアリングの基本となる3つの導入ステップについて確認してみましょう。
ワークシェアリングを導入する方法
- 現状を把握する
- 不要な業務がないかを検討する
- 複数人で分担できる業務や職種を探す
現状を把握する
まずは、組織の現状をしっかりと把握することが大切です。何人の従業員が、どのような方法で、どれくらいの時間をかけて、何の業務を行っているのかを「見える化」しましょう。
▼「見える化」についてさらに詳しく
見える化とは?可視化との違いやメリットと業務での活用方法を解説
不要な業務がないかを検討する
現状を把握できたら、業務の中で無駄な作業や不要な業務がないかを見直します。時間が掛かっている業務で効率化できるものがあればやり方を変え、不要な仕事は無くすなどの業務整理を行います。
複数人で分担できる業務や職種を探す
次にワークシェアリングが可能な業務や職種を検討します。例えば、どうしても時間を要する仕事は何か、専門的な知識や経験を必要とせずに比較的分業しやすい業務は何か、といった視点で考えてみましょう。
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ワークシェアリングの導入を成功させる方法
ワークシェアリングが可能な業務や職種があれば、導入後にどのようにして仕事の分担をするのか、具体的な実施方法を決めて業務マニュアルを作るなど、事前準備を進めるようにしましょう。
従業員によって業務に差が出てしまうことのないように、既存の仕事だからと油断せずに事前準備はしっかり行うようにしましょう。
また、ワークシェアリングの導入が従業員のモチベーションの低下の要因にならないよう、導入前後の従業員マネジメントも重要なカギとなります。
「ワークシェアリングを導入することで何が実現できるのか」「組織やメンバーにとってどんなメリットがあるのか」を明確に伝えると良いでしょう。
また、導入後に定期的に従業員にやりづらいことがないかのヒアリングを行い、必要に応じて業務内容を見直すなど、安定した運用が行えるようになるまでは、業務の進捗状況を確認するようにしましょう。
コミュニケーションを円滑にする
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ワークシェアリングの導入は組織の環境改善や生産性の向上にも役立つ
ワークシェアリングを実施するための方法や、実現できることは組織によってさまざまです。
先行してワークシェアリングを進めている欧米諸国に比べると、日本でのワークシェアリングの導入事例は多くはありませんが、「働き方改革」が進む日本でも、政府主導のもと企業へのワークシェアリングの導入が促進されるなど、注目を集めています。
ワークシェアリングは、「雇用機会の創出」を主な目的としたものですが、ハードワークの緩和や職場環境の改善、業務の効率化など組織の課題解決にも活用することができます。
ワークシェアリングのメリットとデメリットを理解し、自社に取り入れることで組織の環境改善や生産性の向上に役立つでしょう。
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