#労務管理
2024/08/09

従業員の入退社時の手続きとは?必要な書類についても解説

目次

従業員が入社または退社する際、企業は所定の手続きをする必要があります。

手続きの多くは社会保険や税金に関連するため、抜けや漏れがないよう、確実に行われることが大切です。

それでは、従業員の入退社時に必要な手続きには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。また、入退社時の手続きを行う上で、どのような点に留意すれば良いのでしょうか。

この記事では、従業員の入退社時に企業で行う手続きの種類や、手続きを行う上での留意点について説明します。

入退社時に必要な手続きの種類とは

従業員が入退社する際に必要な手続きは、主に社会保険や税金に関わるものです。

具体的な社会保険の種類には、健康保険や厚生年金保険などがあります。入社時にはこれらの社会保険に加入し、退社する際は資格を失うことになります。

また、入退社に関係する税金に、住民税や所得税があります。企業の担当者は入退社する従業員の税金について、必要に応じて自治体などの各機関へ書類を提出します。

入社時に必要な手続き

春など新入社員が多く入る時期は、人事部や労務部の業務は多忙になりがちです。

そのため、新しく入社する従業員から必要な書類が提出されているかどうかなど、手続きの抜け漏れがないよう注意することが大切です。

以下で、従業員の入社時に必要な手続きについて説明します。

労働条件の明示

従業員を新しく雇用する際、企業はどのような条件で働いてもらうかを明確に伝える必要があります。

この条件は、雇用形態を問わず労働基準法を遵守したものでなければいけません。また、重要な項目に関しては書面に明記して、従業員本人へ渡します。

労働条件の具体的な内容には、以下のようなものがあります。

  • 労働期間に関する事項(有期契約か、無期契約か)

  • 就業場所や業務内容に関する事項

  • 始業時刻・終業時刻や残業時間、休憩時間に関する事項

  • 法定休暇・有給休暇に関する事項

  • 給与の計算や支払いに関する事項

「雇用契約書」や「労働条件通知書」など、上記の内容を明示する書面の名称は問いません。名称に関わらず、重要な事項が分かりやすく伝えられている書面であることが大切です。

健康保険・厚生年金保険の加入手続き

健康保険や厚生年金保険への加入手続きも、従業員の入社時に重要な手続きです。

特に健康保険は、加入することで保険証が手元に届きます。そのため、従業員だけではなくその家族にとっても大切な手続きです。

健康保険や厚生年金保険には、フルタイムで働く人は必ず加入します。

パートタイムで働く人については、1週間の所定労働時間と、ひと月の所定労働日数がフルタイムの4分の3より多い場合に加入します。
目安としては、週に30時間以上働く場合は、パートであっても健康保険や厚生年金保険に加入する必要があると言えます。

具体的な手続きは、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」という書面の提出です。提出は従業員を雇用した日から5日以内に行います。提出先は、​​日本年金機構の各地域の事務センターです。

雇用保険の加入手続き

雇用保険への加入も、新しく入社した従業員にとって重要です。

健康保険や厚生年金保険と同様、雇用保険もフルタイムの従業員は全員加入します。

パートタイムの従業員については、週に20時間以上働く場合に加入が必要です。学生は、週の労働時間に関わらず、雇用保険への加入は不要です。

具体的な手続きは、「雇用保険被保険者資格取得届」という書面の提出です。提出は従業員を雇用した翌月10日までに行います。提出先は管轄の公共職業安定所、いわゆるハローワークです。

所得税に関する手続き

入社時には税金に関する手続きが必要であり、その税金の一つが所得税です。

具体的な手続きに、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出があります。これは、扶養家族の有無を確認するために必要な書類です。

この申告書は本来、税務署長・自治体へ提出するものです。しかし、税務署長・自治体から提出を求められた場合以外は特に提出する必要はなく、企業が保管することになっています。

また、副業をしているなど、従業員に別の収入がある場合は提出が不要です。

さらに、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」以外にも、従業員に前職がある場合、年末調整を行う際に前職の源泉徴収票が必要です。

住民税に関する手続き

入社時には、住民税に関する手続きも必要です。

具体的な手続きは、「給与所得者異動届出書」という書面の提出です。提出期限は従業員を雇用した月の翌月10日まで、提出先は従業員の住民票がある市町村などの自治体です。

「給与所得者異動届出書」は、従業員の住民税を自社で給与から天引きすることを報告するための書類です。

これまで個人で住民税を納付していた人は、雇用されたことによって、住民税が新たに給与から天引きされることになります。また、転職で入社した人は、住民税が前会社での天引きから自社での天引きに変わります。

このような住民税徴収方法の変更を伝えるために、「給与所得者異動届出書」が必要なのです。

入社時手続きに必要な書類とは

従業員の入社時は、人事部などの担当者が必要な書類を所定の機関へ提出します。

それらの書類の作成にあたって、従業員が準備しなければいけないものもあります。具体的には、以下が従業員が準備しなければいけないものです。

  • マイナンバーを確認できるもの

社会保険の手続きでは、従来基礎年金番号を確認していました。しかし現在では、マイナンバーの確認ができれば基礎年金番号の記載は不要です。

マイナンバーを確認できるものには、以下の種類があります。

  1. 写真付き個人番号カード(マイナンバーカード)
  2. 個人番号通知カード+写真付き身分証明証
  3. マイナンバー入り住民票+写真付き身分証明証
  • 雇用保険被保険者番号を確認できるもの

雇用保険被保険者番号は、雇用保険の加入手続きに必要です。雇用保険被保険者番号を確認できるものには、以下のような種類があります。

  1. 雇用保険被保険者証
  2. 前職の雇用保険資格喪失確認通知書もしくは離職票
  • 給与振込先口座の情報を確認できるもの

給与は口座振込で支払われることが多いため、入社時には給与の振込先口座の内容が分かるものを提出する必要があります。具体的には、通帳の表紙や最初のページなどの、口座情報が分かる箇所のコピーを提出するのが一般的です。

  • 従業員本人の住所を確認できるもの

従業員の住所を確認できる書類が必要な場合もあります。

具体的な書類としては、住民票や運転免許証のコピーなど、公的な証明書の写しを提出することが一般的です。

  • 前職の源泉徴収票

転職で自社に入社した従業員の年末調整を行う場合、前職の源泉徴収票が必要です。

ただ、保管時の紛失や漏えいなどのリスクを避けるために、入社時よりも実際に必要になる年末頃に提出してもらうのが良いでしょう。

退社時に必要な手続き

入社時同様、従業員の退社時にも必要な手続きが多くあります。
具体的には、社会保険や税金の手続きに加えて、退職金に関するものもあります。

特に、従業員が転職のために退社する場合はスムーズに次の職場に移れるよう、手続きを迅速に行うことが重要です。

健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続き

企業を退社する場合、入社時に加入した健康保険や厚生年金保険の資格は失われます。

企業では、従業員が退職した日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。提出先は、​​加入時と同じく、日本年金機構の各地域の事務センターです。

また、資格喪失届の提出時に「健康保険被保険者証」、いわゆる保険証を添付・返却する必要があります。健康保険被保険者証については、従業員本人の分のみではなく、扶養家族がいる場合は家族の分も併せて返却します。

雇用保険の資格喪失手続き

健康保険などと同様、雇用保険も退社時に資格が失われます。

そのため、企業は従業員が退職した日の翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。提出先は、加入時と同じく、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)です。

また、従業員本人が離職票の交付を希望する場合、「雇用保険被保険者離職証明書」も併せて提出します。雇用保険被保険者離職証明書を提出することによって、従業員が雇用保険の基本手当を受給できます。

雇用保険被保険者離職証明書の提出が必要かどうかは、従業員ひとりひとりの事情によって異なります。退職する従業員には、あらかじめ離職票が必要かどうかを確認しておくと良いでしょう。

源泉所得税・年末調整の手続き

従業員が退社する際、企業は源泉徴収票を交付する必要があります。

源泉徴収票とは、その年の1月1日から退社するまでの期間に、従業員に支払った給与額などを記載したものです。源泉徴収票は、確定申告の際に必要であったり、転職先の職場に提出しなければならかったりする場合があります。退社・転職の慌ただしさの中で紛失することがないよう、従業員に念押ししておくことが大切です。

年末調整については、基本的に退社した従業員について行うことはありません。ただし、以下のような状況においては、従業員が退社するタイミングで年末調整を行う場合があります。

  • 従業員が12月に給与の支払いを受け、同12月内に退社した場合

  • 従業員が著しい心身の障害によって退社した場合(再就職が難しいことが明白な場合)

  • 従業員が死亡した場合

住民税に関する手続き

給与から住民税が天引きされている場合、従業員が退社した際に、企業はその旨を自治体に報告しなければいけません。

給与からの住民税の天引きを止めても、自治体が従業員が退職したことを知らなければ、住民税が企業に課され続けるためです。

企業は、入社時同様「給与所得者異動届出書」を自治体に提出する必要があります。提出期限は、従業員が退職した翌月の10日までです。

退社する従業員の転居などによって、給与から住民税を天引きしていた自治体と、翌年度に住民税を課す自治体が異なる場合もあるでしょう。

そのような場合は、2つの自治体にそれぞれ「給与所得者異動届出書」を提出します。

退職金からの控除計算

退社に当たって退職金を支払う場合、住民税や所得税を退職金から天引きしなければいけない場合があります。

天引きした住民税や所得税は、退職金を支払った月の翌月10日までに税務署や自治体に納付します。

また、退職金を支払った場合は、退職金の源泉徴収票を従業員に渡す必要があります。退職金の源泉徴収票は、様式が通常の給与の源泉徴収票とは異なります。

具体的な記載方法は、国税庁のホームページなどで確認できます。

退社時手続きに必要な書類とは

入社時には、従業員に提出してもらわなければならないものが多くありました。

一方、退社時に提出してもらうものは多くありません。具体的には、以下のようなものが必要です。

  • 保険証

退社により健康保険の加入資格がなくなるため、従業員本人はもちろん、扶養している家族の分も含めて保険証を返却してもらう必要があります。

  • 退職届

転職など、従業員本人の都合による退社の場合、退職届の提出が必要です。

この他、パソコンや社員証など入社の際に貸与した備品があれば、忘れずに最終出社日までに返却してもらいます。

入退社手続きにおける留意点とは

従業員の入退社にあたっては、社会保険や税金など、公的な手続きが多く必要です。

特に春は入社・退社する従業員が多いため、ミスが起こらないよう注意深く手続きを行うことが求められます。では、入退社手続きにおいては、具体的にどのような点に留意すれば良いのでしょうか。

以下で、4点に分けて説明します。

チェックリストなどで抜け漏れを防ぐ

従業員の入退社時には、自治体などに提出しなければいけない書類が複数あります。

企業によっては、社会保険労務士など、社外とのやりとりが必要な書類もあるでしょう。

どの書類をどこへ提出するのか、専用のフォームはどこにあるのかなどの情報を整理しておかなければ、うっかりミスや抜け漏れが発生しかねません。そのような手続き漏れを防止するために、専用のチェックリストを作成しておくと安心でしょう。

従業員の入退社が分かったら、作成したチェックリストに沿って一から対応していけば、抜け漏れを防止できると考えられます。

また、企業側のみではなく、従業員本人に向けたチェックリストも作成すると良いでしょう。従業員自身が提出するべきものを把握できることにより、手続きがスムーズに行えることが期待できます。

チェックリストを渡す際には、離職票や退職金の源泉徴収票など、退職当日ではなく日にちを空けないともらえない書面があることを併せて説明しておくと良いでしょう。

「HRBrain 労務管理」では、入退社時に工数がかかりがちな各手続きの効率化をサポートします。

入社時・退社時に必要な書類も、従業員の入力情報からペーパーレスで自動作成できます。

導入後の設定をカスタマーサクセスが支援するため、初めてのシステム導入時でも安心してご利用いただけます。

「HRBrain 労務管理」についての詳しい内容はこちら

HRBrain 労務管理

各手続きの期限を把握しておく

入退社手続きにおいて自治体などに提出する書類には、それぞれ異なる提出期限があります。

入社時の手続きで言うと、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」の提出期限は雇用した日から5日以内、「雇用保険被保険者資格取得届」の提出期限は雇用した月の翌月10日です。

退社時の手続きで言うと、「給与所得者異動届出書」の提出期限は退職した月の翌月10日、退職金から天引きした住民税・所得税の納付期限は退職金を支払った月の翌月10日です。

それぞれの書類の提出や手続きの期限が異なるため、うっかり期限を過ぎてしまった、ということが起こらないよう、正確に期限を把握することが大切です。

配布・返却物の管理を徹底する

従業員の入社時に、職場への入館証や社員証、社章やパソコンなど、備品を貸与することがあります。

これらの備品は、従業員が退社する際に確実に返却してもらう必要があります。

特に入館証などは、職場に入るための鍵のようなものであるため、所在が分からなくなるとセキュリティー面の安全に関わります。

退社後に返却してもらおうとしたら従業員本人と連絡が取れない、といった状況になって困ることがないよう、早めに返却してもらうことが大切です。

退職後の個人情報の保管を厳密に行う

入社や退社に関わる従業員の個人情報は、法律によって3年間保管することが義務付けられています。

ただ、各企業の事情によっては、3年で情報を破棄してしまうと、何らかの支障が出る場合もあります。

そのため、退社した従業員の個人情報は、各社の事情に合わせて保管されるのが一般的です。

しかし、あまりに長期間にわたって個人情報を保管することは好ましくなく、管理にも手間がかかります。

従業員の個人情報については、どのくらいの期間保管するか、どのような方法で管理するかなどについて、あらかじめルールを自社内で決めておくことが大切です。

HRBrain 労務管理で労務のDX・ペーパーレス化を実現

HRBrain 労務管理で労務のDX・ペーパーレス化を実現

HRBrain 労務管理は、入社手続きや年末調整で発生する人事労務業務をペーパーレス化し、人事労務業務の効率化を実現するサポート品質No.1(※)の労務管理システムです。

導入から運用開始までにかかる期間は平均1〜2ヶ月と短く、導入のしやすさも好評いただいております。

運用開始チェックリストの提供やオンラインでの個別相談会の実施、ヘルプページやチャットでの問い合わせ対応など、導入前後のフォロー体制が充実しております。

ぜひお気軽にお問い合せください。

※ITreviewカテゴリーレポート「労務管理部門」(2022Fall)

まとめ

従業員が入社・退社する際、企業では社会保険や税などの各制度に関する手続きを行う必要があります。

手続きに漏れがあると、自社のみではなく、従業員本人の生活に支障が出る場合もあります。

うっかり提出を忘れることがないよう、チェックリストを作成するなどして、書類の作成・管理を丁寧に行いましょう。

また、従業員に貸与していた備品の返却や、退職金から天引きした税の納付など、事務関連以外の業務も漏れなく行うことが大切です。

HR大学編集部
HR大学 編集部

HR大学は、タレントマネジメントシステム・組織診断サーベイを提供するHRBrainが運営する、人事評価や目標管理などの情報をお伝えするメディアです。難しく感じられがちな人事を「やさしく学べる」メディアを目指します。

\ この記事をシェアする /

  • X
  • LinkedIn

おすすめ記事