離職率を1/2に大幅改善。医療法人における人事制度構築の成功の軌跡。
医療法人社団順洋会グループ 理事
櫻井英里子 様
医療法人社団順洋会グループ 総務人事部
杦山正行 様
- 医療
- 51~300名
- 人事評価や目標管理の運用を効率化したい
- 評価の納得度を向上させたい
HRBrain導入開始:2017年05月01日
離職率を1/2に大幅改善。医療法人における人事制度構築の成功の軌跡。
- 課題背景
- 新事業展開の際法人の長期的なビジョンを見られる人材を増やしたい
- 業界として人事評価に抵抗感があり、被評価者の不満が目立つように
- 一方向の評価による人事評価のブラックボックス化に課題
- 打ち手
- 人事評価に特化したHRBrainの導入を決定
- HRBrainを評価者被評価者が互いの思いを伝える場として活用
- 効果
- 離職率の大幅改善、産休から復帰する職員も増加
- 経営陣から現場まで同じ目標に向いて活動できるようになった
- 人事評価表の管理や保管の手間がなくなった
―まず、御社についてご紹介いただけますでしょうか。
櫻井さま:順洋会グループは、医療事業を始めとし、薬局事業や動物介在事業の3つの事業をやっている会社になります。
―お二方は、社内でどういった役割を担われているのでしょうか。
櫻井さま:私は医療事業の経営の責任者として、運営全体を管理しています。役職としては理事をしています。
杦山さま:私は労務人事部の責任者として、労務と人事を担当していまして、入退職や求人展開、勤怠労務管理、人事評価などの人に関わるすべての業務に携わっています。
長期的なキャリア形成を目指し人事評価制度の整備を開始
―ありがとうございます。医療の現場では、人事評価制度含めた人事制度の運用がなかなか定着しないという声を聞くのですが、実態はどうでしょうか?
櫻井さま:そうですね。大学病院などの大きな組織は人事制度などの整備がされているのですが、開業医などの小さな規模のクリニックでは人事評価制度含め実施している施設は少ないことが実態です。
―人事評価制度が整備されていない理由は、どのような背景からそうなっているのでしょうか?
櫻井さま:小規模の個人クリニックでは、裏方スタッフの人員配置がほとんどないため、手が回らないことも理由の1つですが、小さいところではスタッフ数が5人程度というところもあるので、人事評価制度を必要と考えていない院長も多いのだと思います。
杦山さま:あとは医療業界の特徴として、院長と従業員の立場が逆転してしまうこともあります。看護師や事務に辞められてしまっては困ると、人事評価をすることに二の足を踏んでしまうのです。院長ひとりでは診療ができませんからね。
―人事評価制度が整備されていない中でどのようにお給料は決まるものなのでしょうか。
杦山さま:基本的に医療は、国が商品単価(診療報酬)を決めるサービスなので、従業員の給与も相場が決まっています。医療従事者は技術職なので、経験年数やスキルが重要視されています。
櫻井さま:個人クリニックの看護師転職率は比較的高く、2〜3年で転職してしまう看護師も多いです。ですから、人事評価制度を設けて、ていねいに昇級させていく制度が浸透しづらいのかもしれません。
―3年で転職する人が多いとありますが、人材が頻繁に入れ替わる理由はどういったところでしょうか。
櫻井さま:もちろん人間関係などもありますが、ほかに個人クリニック特有の理由として、スキルアップと職務経験の幅を広げたいという声もよく聞きます。大きな大学病院などであれば、様々な患者さんが来て、様々な臨床に触れたりすることで勉強が可能ですが、クリニックは状況が全く異なります。クリニックは、単科が主流です。ですから、たとえば、耳鼻科クリニックだったら耳鼻科の患者、小児科クリニックだったら小児の患者しか来ません。さまざまな臨床経験を積むためには、どうしても転職しなければならないのです。
―ありがとうございます。人事評価制度が整備されていない施設が多い医療業界の中で、御社が人事評価制度を構築しようと思ったきっかけは何でしたか?
櫻井さま:人事評価制度を構築しようと思ったのは5年前、新しい事業展開を考えていたときに、法人の長期的なビジョンを一緒に見ることのできる人材を増やしたいと思ったからです。人事評価制度は法人の理念と自分のやりたいことをすり合わせ、未来の姿を考えていくことだと思いますので、一緒にキャリアイメージを作っていきたいという想いで始めました。
「人事評価の目的は法人の方向性と本人のキャリアの擦り合わせ」
―最初に制度を構築したときはどのように構築されたのですか。
櫻井さま:最初は私一人で作りました。当時は医師に、理事長、院長のほかに常勤の方がいなかったので、医師以外の職種の人事評価制度を作りました。私が医療職種ではないので、看護師やその他医療職の技術面を評価するものは作れませんが、それは必要ないと思いました。なぜなら、人事評価をする目的は法人の方向性と本人のキャリアを擦り合わせることだと考えたからです。
当初の反発を乗り越えて人事評価制度を整備
―最初に人事評価制度を構築したときは社員の反応はどうでしたか。
櫻井さま:現場からはものすごい反発でした。「何を評価するのですか?」とか「現場にいたこともないくせに。」のような反発が非常に多かったです。「人事評価制度」の「評価」という文言だけが独り歩きしてしまって、とてもマイナスなイメージが先行してしまったのです。そこで、まずは人事評価制度について説明するために評価者を集めました。そこで話したことは、人事評価は、評価だけが目的ではなく、お互いにどんなことをしていきたいか、何をしていきたいのかという未来をすり合わせる作業なんだと伝えました。実際に、法人の目指す方向を評価者に理解してもらって、部下の得意なことややりたいことを、どう結びつけていくかが浸透するまでに2年くらいかかったと想います。
―具体的にどのような運用をされていたのですか。
櫻井さま:1等級から5等級までのシンプルな等級制度を実施していました。忙しい現場スタッフに面倒と思われないよう、評価項目は少なく、そして達成内容は簡単でわかりやすいものにしていました。例えば、1等級であれば、遅刻をしないやしっかりとシフト通り動くなどの非常に簡単な5項目です。法人が提示するこの5項目に加えて、半期に1度自分で目標を立ててもらって、その目標の達成度と5項目がどうだったかということを4月と10月に所属長との面談で評価するという運用をしていました。
―浸透するまで2年かかったと先程お伺いしましたが、浸透してからはなにか手応えなどございましたか。
櫻井さま:2年かけて浸透は出来たのですが、浸透した後に大きな壁にぶつかってしまいました。上長に面談のみではなく、評価することを任せてみたことです。評価者もまだまだ成長途中だったため、被評価者が評価内容に不満を抱くケースがちらほら増えてきたので、HRBrainの導入を決めました。
人事評価だけに特化しているサービスであったことが導入の決め手
―HRBrainを導入しようと思ったきっかけはどういったものだったのでしょうか。
櫻井さま:それまでは紙ベースで人事評価を運用していました。被評価者本人が自己評価採点をしたものを評価者に渡し、評価者が評価をして最終評価者に提出する、という方法です。しかしこれでは評価が一方向のためブラックボックス化しやすく、評価内容やプロセスを透明化させたいと思ったことが導入のきっかけです。
―他の競合サービスとも比較されていたと伺っておりますが、その中でHRBrainを導入いただいた決め手は何だったのでしょうか。
櫻井さま:その当時、人事評価だけに特化しているサービスはHRBrainしかありませんでした。他のサービスは様々な機能があったのですが、まずは人事評価に特化してやりたいと思っていて、シンプルでわかりやすく運用できるHRBrainは非常に魅力的でした。
※現在は、組織分析・タレントマネジメントまで実施いただけます。
「ブラックボックス化していた人事評価制度の透明化」
―HRBrainを導入して、実際にどのようにご活用されたのですか。
櫻井さま:元々あった制度をHRBrainに乗せて今まで通り運用していました。HRBrainに移行してみると、紙で運用していたときは不透明だったことを透明化することが出来ました。
―人事評価制度を運用する上で心がけていることはございますか。
櫻井さま:紙ベースで運用しているときから、一人ひとり、コメントを丁寧に書くことを心がけていました。人事評価は数字を入れて終わりになってしまうと評価を受ける側に真意が伝わらない場合があるので、フィードバックのコメントは非常に大切にしています。私がコメントに重きを置いてきたこともあり、被評価者も評価者もコメントを丁寧に書くようになってきて、コメントの内容が良い方向に変わってきました。
―「コメントの内容が変わってきた」という点を詳しく教えて下さい。
櫻井さま:紙ベースで運用していた時期は、書くのが手間なので、被評価者も評価者も一行感想文のような感じでした。しかし、HRBrainを導入してからは、コメントを打ち込むことが容易になりましたので、被評価者はきちんと自分の気持ちを振り返ったり、評価者は評価に対する来期のアドバイスをしたり、互いの思いを伝える場になってきています。
杦山さま:コメントが変わった理由としては、タイムリーに被評価者本人に直接コメントが届くようになったことが大きいと思います。紙ベースの運用では、最終評価者と被評価者本人の間に、評価者という別の人が介在してしまいます。よって、評価シートはかなり時間が経ってから本人に返却されるということもありました。HRBrainでは鉄の熱いうちに必ずコメントが本人に届くので、コメントの質の変化に大きく影響を及ぼしていると思います。
―ありがとうございます。社員の行動などに変化はございましたか。
櫻井さま:目標の設定に対する熱量が変わってきました。それは、マネージャー層の育成による変化だと思います。マネージャー自身が、自分の部署をどのような部署にしていきたいのかという目標を決めることによって、その部署の他の社員も目標を決めやすくなったことが大きな要因だと思います。
マネージャーの育成にも注力
―社員の目標への意識を変えるために、マネージャーの育成に力を入れられたのですね。
櫻井さま:マネージャーの育成には力を入れてきました。1年間かけて、毎月の管理者会議の中で、法人の理念や方向性を、まずはマネージャー層に理解してもらうように徹底し、法人の理念から部署の目標を作成し、部署の目標から個人の目標に降りてくるといった意識を浸透させることが出来ました。
―月1度の管理者会議もマネージャーの育成の一環ということでしょうか。
櫻井さま:そうですね。医療従事者には一般企業にあるようなビジネス勉強会はほとんどありません。月に1回の管理者会議では、法人の理念を共有し、ビジネス知識に触れながら管理者としての在り方を考えてもらいます。
―そのビジネス勉強会は櫻井さまが実施されるのでしょうか。
櫻井さま:そうです。社内で毎月何かしらのトラブルは発生するので、その月のトラブルが起きた原因を中心にトピックを決め、資料を作成して毎月実施しています。
―管理者会議への参加は任意なのですか。
櫻井さま:各部署の管理者が参加必須になっているのですが、5年前、人事評価制度開始と同時に会議をはじめたばかりのときは、参加意欲は非常に低かったです。
―現在の参加者の参加意欲はどのような感じなのでしょうか。
櫻井さま:今は全然違いますね。全体的な管理者のレベルが上がってきて、意見も活発に飛び交うようになりました。人事評価制度は、各部署の目標立てが肝になりますが、管理者の意識が高くなったことで、部署目標も充実してきました。そしてそれをHRBrainを使って評価をし、次の期の改善につなげるというPDCAサイクルが、ようやくうまく回ってきたような気がします。
あとは、他の社員が評価者会議の日に、「今日、評価者会議だったのですか?」などを聞くようになってきたことで、評価者であることが嬉しいという風に変わってきて、評価者会議への参加意欲が上がったと思います。
「HRBrainは部下との絆を築けるツール」
―ありがとうございます。管理者会議の実施を通してマネージャーの意識が変わってきたということですね。
櫻井さま:そうですね。理念が浸透され、人事評価をする目的を理解し、HRBrainを部下との絆を築けるツールとして認識し始めたことで大きく変化していったのだと思います。
最初の頃は、すぐに成果に結びつかないので、意味がないのではないかと思う時期もありましたけど、今では続けてきて非常に良かったと思いますし、継続することに意味があったと思います。HRBrainはアフターサービスが手厚かったということは非常に助かりました。
―ありがとうございます。どのような点で、アフターサービスの良さを感じていただけたのでしょうか。
櫻井さま:他のサービスだとわからないところがあってもすぐに聞けないことがあると思いますけど、HRBrainはわからないところを連絡すると、すぐに教えてくださるので非常に助かりました。
活用の結果:制度の整備とHRBrainの活用で大幅に離職率が改善
―弊社もサポート面はとても重視しているポイントなので、そのように思っていただけると非常にありがたいです。HRBrainを活用するにあたって最初の課題の1つであった離職率に変化はございましたか。
櫻井さま:離職率は非常に低下しましたね。1~2年で退職していたスタッフが、3~5年はいてくれるようになりました。産休から帰ってきてくれる職員も大幅に増え、今も4名が産休中です。HRBrainを導入して、大幅に離職率は改善されました。
―離職率改善の要因について詳しく教えてください。
櫻井さま:先程もお話したのですが、人間関係が良くなったという点ですね。上司と部下で面談をしてフィードバックする制度が浸透しているので、上司と部下の関係はとても良好です。また、その上司と経営陣とのコミュニケーションも取れているので、経営陣から現場まで同じ方向を全員が向いているので、人に対する不信感が無くなったことが離職率低下の要因だと思います。
―関係性の改善などの現場の状況は、面談のときに感じるものなのでしょうか。
杦山さま:ポジティブな声が多く出てきますし、辛い時期に耐えてよかったという声を社員がうるっときたような顔で話していると、人事評価を取り入れてよかったと思います。嫌な気持ちで働いても良くないので、上司が現場の声を聞くような風通しが良くなった環境で能力を発揮することが出来ていることは非常に嬉しい変化です。
―ありがとうございます。エンジニアやデザイナーの目標設定に悩みを抱えているベンチャー企業も多いのですが、看護師などの専門職の目標設定について教えていただけますでしょうか。
櫻井さま:部署目標から具体的な個人の目標を落とし込むことが大切です。例えば去年、看護部は「患者様ファースト」を目標にしました。看護師個人はそこから「採血をするときに患者様が痛くないよう技術を磨く」といった目標を立てることができます。
―御社の理念はいつから使用し始めたのでしょうか。
櫻井さま:1999年に開業したときは、当法人の患者に寄り添うという理念を「ゆりかごから墓場まで」というフレーズで表していました。しかし、10年ほど前に、もう少しキャッチーにできないかという話になり、スタッフから公募したんです。そこで出てきたのが「すぐそばに、ずっとともに」というものでした。現場から出てきた言葉なので、スタッフもすんなり受け止められたように思います。
―ありがとうございます。実際にHRBrainを導入して、業務の効率化という点で変化はありましたでしょうか。
櫻井さま:紙の人事評価表を管理する手間や、保管場所が不要になったのは有難いです。また、システム上で、ひとりひとりの成長を入職時からずっと振り返れるのがいいです。
―最後に、HRBrainはどのような会社や組織におすすめできるツールかという点をお伺いしたいです。
櫻井さま:理念を浸透させたいという企業におすすめできますね。理念を可視化することは非常に大切になってくると思いますので、業界問わずおすすめできます。
杦山さま:社員同士のコミュニケーションが不足している企業は、業界問わず導入したほうがいいと思います。HRBrainのようなツールを導入するとコミュニケーションも変わっていくと思います。
―インタビューは以上となりますので、引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
マネージャーの育成や離職率の低下など多くの成果を出し、人事評価制度の運用に成功した、順洋会グループさま。
人事評価制度の構築において、継続することが非常に重要であるというお話を実際の事例を交えながら教えていただきました。櫻井さま、杦山さま、ありがとうございました。
※掲載内容は、記事公開の2020年5月時点のものです。